"そなたは自由だ"と微笑んだ
あなたはけれど、とても哀しい色の瞳で
広がる空を遠く眺めていた。
穏やかな笑みに、沈んだ憂いが僅かに翳る。
「・・―――さま。」
誰の名を呼んだのか、はっきりとは覚えていない。
ただ、伸ばした腕が拒まれることなくその肌に触れ。
這わせた唇が、"誰か"の名を紡いだその唇を淡く啄んだ感触だけが。
今も色鮮やかな思い出となって、記憶の奥底に消えぬ焔と焼きついている。
【籠】
「・・――っ、・・ぁ・・・あっ・・」
押し殺した吐息のような艶声が、狭い室内に響き渡る。
燈籠に照らされた肢体が、沈んでいく腰の動きに合わせてビクリと跳ね上がり。
背に回された手が、深く中へと沈んでいくたびに、ギリリと鋭い爪を肌へと立てていく。
「―――っツ、・・く・・」
鈍く背筋で疼く痛みは、背に立てられた爪が皮膚を抉った為だろうか。
己が猛りすぎているのか、それとも受け入れる周瑜の其れが狭すぎるのか・・
もう幾度目とも知れぬ行為である筈なのに、己を突き入れるその瞬間に、周瑜は必ず縋り付くように爪を立てる。
「・・周瑜様」
滲んだ肌に張り付いた髪を指先で梳いて掻きあげながら、耳元でそっと囁く。
「キツくない、ですか・・?」
「っは・・ァ・・あっ・・・だ、い丈夫・・だっ・・」
爪で背を掻きながら、けれど決して、辛い・・とは言わない。
苦渋の波が自然に引いていくのを、その後に訪れる、身を焦がすような艶やかな熱を、ただひたすらに、待つ。
「・・ッ・・少し、動き・・ます。辛かったら、・・言って下さい」
じわりと背筋を這い上がってくる熱に、掴んだ腰をわずかに引き寄せ、猛った己を最奥まで突き入れて、ゆっくりと引き抜きそして、また突き入れる。
繰り返す抽挿に混じる、淡い吐息と肉が絡む、卑猥な水音。
少しずつ、快楽の波に乱れていくその肢体を眺め下しながら、背に回った腕を捕まえ降ろして、寝台へと深く、強く、縫い留めて。
「・・周瑜、さま・・っ」
「か・・ン、寧・・ッ、ン――――」
僅かに開かれた唇を、己の唇で塞ぎ、己の名ごと、周瑜を啄む。
いつかの誰かが、そうした・・ように。