得た日々に、失った大切な人。
そうして新たに出会う、大切な人。
【儚】
「大地を踏みしめ、大地に生きる――――私と共にな・・」
穏やかな笑みでそう囁いてくれた、あの人の夢を見る。
"・・黄祖様"
ただ一つの水面を分けて、互いの岸に対を為す。
大地の上に立ちつくし、吹き抜ける潮風に長い髪が、髪の飾りが緩やかに揺れ、影を揺らす。
夢であっても構わない。
ただその傍に行きたくて、踏み出そうとした一歩は、けれど踏み出すことはなく。
変わらずに在る優しい笑みに、振るった首の動きに流れる髪に、切ない想いに胸が痛む。
"黄祖様・・、黄・・"
"おまえはまだ来るには早すぎるだろう?私は変わらずに在るのだから、焦らずにゆっくりと来なさい。"
静かな声音はけれどとても優しくて、温かくて。
鴎の鳴く岸辺に佇む穏やかな時は、けれど少しずつ、端から色褪せ、消えていく。
"・・―――こ、・・"
「――――黄祖様っ・・!」
大切な人の・・、大切だった人の・・優しいやさしい夢を見る。
頬を伝う一雫の仄かな熱は、過ぎし日への後悔の涙。
「・・黄、祖・・様っ・・」
二度(にたび)紡いだその名に、脳裏に浮かび上がる・・いつかの姿に、秘めた想いが堰を切って雫と為って溢れ出す。
■
得た日々に、失った大切な人。
そうして新たに出会う、生きることの意義を教えてくれた、大切な人。
「奪われし玉璽、何としても取り戻さねばならん・・。やってくれるか、甘寧」
「周瑜様の御心のままに―――・・」
あの人の分まで生きる。
大切だった人達の想いを胸に、最後の一矢、まで生きる。
得た日々に、失った大切な人。
失って尚、生きることを選んだ己。
"生きろ"と云って貴方は岸で佇み続ける。
それはとても優しい、夢。
そして儚い、己の願い。